どうぞ、ここで恋に落ちて
私はすずか先生の少し腫れた目元や拗ねたような態度が何を示すのかずっと気になっていて、遂に声に出して聞いてみた。
「あの、すずか先生は、その、サイン会のことは……」
口に出してから、私はすぐに後悔する。
これって、私が聞いていいことじゃないんじゃないかな。
樋泉さんが関わっているお仕事だし、ライバル店でのイベントで企画時期が丸かぶりってことを鑑みても、一書店員としてすずか先生のサイン会が成功してくれればいいと願っている。
だけど私が口を出すべきことではないし、すずか先生だって私だけには聞かれたくないだろう。
それに何より、まだ樋泉さんから直接あの夜のことを聞いていない。
彼ならきっと納得できるようになったら連絡をくれると信じているけど、『ちゃんとけじめをつけてきて』なんて啖呵を切っておきながら、すずか先生から先に結果を聞くのはズルい気がする。
案の定、すずか先生は意志の強そうな目を細めて私をキッと睨んだ。
「ちょっと、その気持ち悪い呼び方やめてくれる? 私の名前は鈴鹿千春子です。"先生"と呼ばれるのは嫌いだし、苗字で呼ばれるのも嫌いだけど、百歩譲ってせめて"鈴鹿さん"にして」
「あ、す、すみません」