どうぞ、ここで恋に落ちて
樋泉さんとのそれは、私の知っている今までのものとは少し違っていた。
彼の仕草のひとつひとつから気持ちが零れ落ちるように伝わってきて、私も自然と応えたいと思う。
性急ではなく、緩慢でもなく、ふたりで互いの最も深いところを探るようだった。
樋泉さんはどんなときも、なるべくたくさん肌を触れ合わせようとした。
まるでそこからふたりが溶け合うみたいに。
何度も名前を呼び、時折キスを重ね、その瞳に自分が映っていることを確かめ合う。
彼の熱を太ももに熱く感じるようになっても、樋泉さんはしばらく、触れ合い体温を高め合うそのときを引き延ばそうとするみたいだった。
もうお互いがこれ以上は待てないと根を上げたとき、彼はようやく私の欠けた部分を満たす。
息を詰めて揺さぶる彼は、私が見たことのない表情をしていたけれど、私はそれもまた好きになった。
* * *
次の日の早朝、先に目を覚ましたのは私だった。
ぴったりと身体を寄せながら、同じベッドに横たわる男の人を観察する。
少し乱れた黒髪や、スッと通った鼻梁や、息を吸っては吐き出す規則正しい呼吸の音。
小鳥が身体を震わせるように長い睫毛が揺れ、アーモンド型の双眸がゆっくりと型どられていく。
目が合ったときのはにかんだ笑顔は、私のよく知る、いちばん好きな表情だった。