どうぞ、ここで恋に落ちて

そんな思いを込めて、国内外の有名古典作品から児童書やライトノベルまで、ファンタジーもミステリーもジャンルを問わず幅広く選んだ。

条件は少しでも恋愛要素があることと、主人公が何かに夢中になっていること。

もちろん、すずか先生の作品も私のいちばんお気に入りのものを置いてある。


「あら、やよいはるのサインだわ」


午前中に来店した常連客の小牧の奥さんは、やよい先生のサインに目を留めてイベントコーナーに立ち寄ると、すぐに新刊を手にした。

それから棚をぐるりと見渡し、海外ミステリーと日本の古典作品を選ぶと、伊瀬さんを捕まえて話し込んでからレジへやって来る。

お金を受け取って3冊の本を紺色の紙袋に入れる私に、小牧の奥さんが話しかけてくれた。


「あのコーナー、高坂さんがつくったそうね。伊瀬くんから聞いたのよ。普段は読まなジャンルだけど、こんなおもしろそうな本があるなんて知らなかったから読むのが楽しみだわ」


紙袋を胸に抱えてご機嫌な様子で店を出て行く小牧の奥さんの後ろ姿は、その日の最初の嬉しい出来事だった。


午後の早い時間には、くるくると長い髪をキレイにカールさせたマダムと、お揃いの髪型の女の子が来店した。

女の子は目についたイベントコーナーに駆け寄り、後ろを歩くマダムはチラチラと店内を見回して、何かを期待しながら誰かを探しているみたい。
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