仇打ち
動き出す

突然のお願い

「ようオタク!!」
はぁ。あいつの声はよくとおる。例え1000メートル離れていても聞こえるような気がする。
歴史探究部は校内の底辺の部活。部員はクラスにうまく溶け込めなかった奴ばかりで、一年のときにそれを経験していた僕も、どうせ今年もそうなんだろうと半ば諦めていたのだが、この声の主、橋本は違った。
真っ先に僕に声を掛けた。僕たちはすっかり仲良しになった。そして橋本のおかげで僕は今年、ぼっちを脱却したのである。
「おう、おはよう」
まだ毎朝の挨拶を交わすという行為に馴れない僕は若干のぎこちなさを漂わせたて返事をした。
ちなみに、オタクと呼ばれるのは仕方がない。僕は正真正銘のオタクであったからだ。
「オタク!昨日のあのテレビ観たか?あの、都市伝説のー」
僕は橋本を尊敬している。本当に明るい奴だ。いつも笑っている。こういうタイプの人間は必然的に友達が多い。僕も彼のような性格だったらな。正直、僕は彼を羨ましいと思っていた。
「おいオタク、聞いてんのか?」
橋本が口調を強めて言った。
「ごめんごめん。ぼーっとしてた。で、なんの話だっけ?」
「都市伝説の話!でさ、テレビのことはどうでもいいんだよ。実はさ、昨日調べてたら、この地域にも都市伝説があるってことを突き止めたわけだ。学校のすぐ近くの魂霊神社ってあるだろ?あそこには出るらしい」
橋本は興奮した様子だった。
「出るって何が?」
「まだわかんねーのかよ。幽霊だよ、幽霊」
「幽霊?!」
驚きのあまり声が裏返った。僕は幽霊とかそういうのは苦手だ。
「うるせーよ」
橋本は僕を馬鹿にするように言った。そして続けた。
「そこで、お前の歴史探究部っていう部活でそれを調べて欲しい」
「はぁー??なんでそうなるんだよ。そんなの歴史探究部となんの関係があるんだ」
「まぁまぁ、最後まで聞けよ。でさ、その幽霊っていうのが昔この地域で起こった連続通り魔事件の犯人の霊なんじゃないかっていう話らしい。実際、その犯人は警察に捕まることはなかったんだ。忽然と姿を消したんだってさ。これは歴史探究部にとって美味しい話なんじゃないか?」
「れ、連続通り魔??そんなの怖くて行けないよ。第一、殆ど真面目な活動なんてしてないし、部員はたった3人しかいない。みんな僕とおんなじ腰抜けだ。僕を含めて、全員が納得しないと思う」
僕は動揺しながらも無理だという意思を伝えた。だが、橋本はそう簡単には折れてくれなかった。
「絶対おもしろいって!!大丈夫。例え霊が出ても殺されやしねーよ。まだ本当かどうかもわからないしな」
「えー。でも……」
「そうだ!」
橋本が突然声をあげた。そして腹黒そうな表情で僕に言った。
「お前、百瀬のこと好きだろ?」
僕はさらに動揺して、
「な、なんでそれを……」
橋本の目を凝視しながら言った。
百瀬さんは、去年も僕と同じクラスだった。人目見たときからずっと好きだった。密かに想いを寄せていた人だった。でも、誰にも言ったことはなかった。とっくに諦めたはずの恋だった。特に二年生になってからは一言も喋っていない。どこでそのことを知ったんだ……?
「お前をみてたら大体わかるよ。だって俺ら友達じゃん?」
友達。はたしてそれで片付けて良いのだろうか。まぁ、ばれてしまったのなら仕方がない。きっと無意識のうちに露呈していたのだろう。僕は吹っ切れて言った。
「で、それがなんだっていうんだよ」
橋本は途端に目を輝かせて僕に告げた。
「俺がその仲を取り持ってやるよ」
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