シンデレラに恋のカクテル・マジック
「あ、明日来てくださいって……」
「どこに?」

 永輝の声が大きくなった。菜々は急いで答える。

「と、東京……」
「東京!?」

 菜々の返事を聞いて、永輝の表情が険しくなった。彼が菜々に対してそんな表情をしたのは初めてだ。

「あ、あのっ、おじいちゃんが危篤みたいだから、会いに行く約束をしたんです」
「危篤って……そんなに悪かったんだ……」

 永輝が菜々の手を握ったまま、彼女をテーブルから引き起こした。

「ごめん。そういう話をしてたとは思わなくて……休憩室から出てきたとき、あいつが俺を見てこれ見よがしに菜々ちゃんの耳に何かささやいてたから……ついカッとなって」

 ヤキモチを焼いてくれていたんだ、と思うと菜々は嬉しくなった。微笑みそうになって、不謹慎かな、と表情を引き締める。

「明日の朝一の新幹線で東京に向かう予定なんです」
「予備校の仕事は?」
「仕方ないので途中で連絡を入れます。祖父が危篤だという理由なら、何とか休みを認めてもらえるかも……」
「俺も一緒に行こうか?」

 永輝が菜々の顔を覗き込んだ。その思いやりに満ちた表情に菜々の胸がじいんとする。
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