シンデレラに恋のカクテル・マジック
(専属のシェフがいて、自宅での昼食がフレンチだなんて……)

 菜々は内心ため息をついた。とはいえ、今でこそ節約生活でフレンチのマナーとは無縁の生活を送ってはいるものの、菜々は板前の父と良家の令嬢だった母から食事のマナーはきちんとしつけられている。

 菜々が食事をする様子を見て、良介がうなずく。

「なるほど、佐百合はきちんとしつけをしていたようだな」
「母だけでなく父にも教わりました」

 菜々は正直に答えたのだが、祖父は気分を害したらしい。眉を寄せて菜々を見る。

「私に口答えするとは、さすがに斎城が育てただけのことはある」

 その言葉には菜々も気分を悪くしたが、何か言えばまた父のせいにされそうなので、運ばれてきたグリーンピースのポタージュに黙ってスープスプーンを差し入れた。

(おじい様はよっぽどお父さんのことを認めたくないんだ……)

 そう考えると、もどかしさと同時に悲しみを覚えた。祖父の言葉が尾を引いて、魚料理のメイン、ノルウェーサーモンのグリルにカリフラワーのピューレを添えたものも、肉料理のメイン、仔牛フィレ肉のロティも、味気なく感じてしまう。
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