シンデレラに恋のカクテル・マジック
(知らないうちに掃除されてたなんて……なんかちょっとやだなぁ)

 価値観の違いに戸惑いながらベッドに腰を下ろした。ふわんと弾む感じが、永輝の部屋のベッドを思い出させる。

(永輝さん……)

 由香里には永輝に気持ちをぶつけてみたら、と言われたが、彼には着信拒否されている。果たして菜々の話を聞いてくれるだろうか。

(でも、叔母様の言う通り、気持ちを伝えたらすっきりするかもしれない。そうすることが、永輝さんを忘れる第一歩になるかも……)

 菜々は迷いながらもバッグから携帯電話を取り出した。

(昨日の朝電話したときには、あんなに甘い声で〝早く帰ってきてほしい〟って……〝好きだよ〟って言ってくれたのに……)

 彼の声を思い出すと、たまらなく胸が締めつけられた。切なく悲しい気持ちで発信履歴を表示させたが、思わず首を傾げる。

(あれ?)

 発信履歴に表示された一番新しい発信時刻は今日の午前九時五十分で、発信先は予備校の事務室だ。休ませてもらうために事務長にかけたものだ。そして、その前の履歴は昨日の午後八時五分、発信先は深森永輝になっている。永輝の番号にかけたが着信拒否されたものだ。そしてその前の発信は午後八時一分。これも発信先は深森永輝だ。けれど、それより古い発信履歴がないのだ。その日の午前九時過ぎに、祖父の家に向かう車の中で永輝にかけたはずなのに、その履歴が消去されている。
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