シンデレラに恋のカクテル・マジック
「俺のことを軽い男だと思ってたから?」
「違いますよっ。私が自分に自信がなかっただけですっ」

 今から思えば、おかしいと気づく機会は何度もあった。一臣は〝明日もわからぬ重い病気〟だといかにも危篤のような言い方をしたが、祖父はペースメーカーの埋め込み手術を終えて元気そうだった。叔母とその息子に対する言葉の端々にも、振り返ってみればねたみのようなニュアンスが感じられた。それに、菜々への唐突なプロポーズ。そのどれも菜々は深く考えなかった。いわば周りが見えていなかったのだ。

 考え込む菜々を見ながら永輝が問う。

「なんで自信がないの?」
「だって、毎日に必死で、ほかのことを考える余裕をなくしていたから」
「でも、俺は菜々ちゃんのそういう一生懸命なところにぐっと来たんだけどな。俺が忘れかけていたものを全部持っていたから」
「忘れかけていたもの?」
「そう。毎日ひたむきに生きることとか、何にでもまっすぐ真剣に取り組むとことか」
「そ、そかな……」

 永輝にほめられ、見つめられているのが気恥ずかしくて、菜々は視線を上げた。夏の夜空にはいくつか星が瞬いていて、静かな通りを菜々は永輝と大阪に戻れた喜びを噛みしめながら歩いた。

 やがてマンションの部屋に着き、永輝がリビング・ダイニングの明かりを点けて、菜々に向き合った。
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