シンデレラに恋のカクテル・マジック
(永輝さんだ!)

 菜々はサイクリングロードから下りるアスファルトの道へとハンドルを切り、細い坂道を下った。住宅に遮られていったん公園は見えなくなったが、角を曲がるとすぐに公園が視界に入ってきた。

 砂場しかないその公園に今いるのは永輝だけだ。開けた場所で左右の手に二本ずつ持ったボトルを順に投げ上げていたが、一本のボトルが彼の手をすり抜け、地面を叩いた。

(大変っ、割れちゃう)

 大きな音がするものと身構えたが、ボトルは鈍い音を立てて地面を転がった。永輝は大きく息を吐くと、三本のボトルをベンチに置いて、水飲み場へと向かった。そうして蛇口をひねり、噴き上げてきた水をゴクゴクと飲んでいたが、やがて目をつぶって顔に水を浴びた。彼が勢いよく顔を上げて首を振り、髪から銀色の滴が飛び散って、キラキラと輝く。

(なんか……キレイ)

 その様子に見とれていると、永輝が視線に気づいたのか菜々を見た。一瞬目を見張ったものの、すぐに笑顔になる。

「やあ、菜々ちゃん」
「こんにちは」

 菜々は自転車を押して公園の入り口に駐めた。

「どうしたの、散歩?」
「いいえ、買い物に行こうかと思ってたんです」
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