ひねくれ作家様の偏愛
次の瞬間、私の左肩が背後のドアに押し付けられた。

驚いて身を翻そうとしたけれど、海東くんはそれ以上何もしてこない。
私は落ち着いてひとつ呼吸した。


「出版会議は来週だから、今週中に原稿をメールして」


「……木曜に取りに来てください。できます」


「打ち合わせも直しも……いらないんでしょう?私は次にできたものはチェックだけして編集長に回すから」


海東くんの右手に力がこもる。
乾いた唇が目前でぎりっと噛み締められるのが見えた。


「意味ないんですよ」


「え?」


「『アフター・ダーク』は俺ひとりで作った。あんたはそれに惚れた。……俺はひとりで作れる。あんたがまた惚れるくらいのものを。そうでないと意味がない」


言うなり、海東くんが私を抱き締めた。
ドアに押し付ける格好での抱擁は、すがりつくように必死で、狂おしいくらい強い。

私は逃げ場がないことにかすかに感謝した。
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