ひねくれ作家様の偏愛
「うん」


私は了承の意味で頷く。

海東くんが窓の外、お台場方面を指さした。


「あの観覧車まで行きましょう」


「観覧車って……。ゆりかもめで?」


「歩いても行けますよ」


社に帰るのは何時になるだろうかと、ふと頭をよぎったけど、すぐに打ち消した。

海東くんの原稿は来週の出版会議に間に合う。今日帰って鈴村編集長に渡せば私たちの仕事は一段落。
それでいい。もう、今日の他の仕事は諦めよう。

二人でマンションを出て、首都高台場線の下、幹線道路をてくてくと歩きだした。
スピードを出した車が行き交う道の脇は、排気ガス臭くて、おおよそ散歩コースとは言いがたい。


「桜庭さん」


横を歩く海東くんが不意に言う。


「手、つないでもいいですか」


「え!!??」

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