ひねくれ作家様の偏愛
「海東くん……好きだよ。きみの書いたものだけじゃない。きみ自身が好き……」


もう届かないかもしれない告白。
案の定、海東くんはかすかに首を振っただけだった。


「もうご機嫌とりの演技は必要ありません。あんたに同情されるのも、好きなフリされるのも、御免だ」


吐き捨てるように言うと、海東くんはタクシー乗り場に来ていた一台に素早く乗り込んだ。

滑るように発車するタクシー。

私は走り去るそのシルエットを見つめ、立ち尽くしていた。
涙がこぼれた。

傷つけた。
だから、失った。

自明の理だ。

私はロータリーの歩道に座り込み、タクシーの消えた方向をいつまでも見つめていた。







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