ひねくれ作家様の偏愛
そもそも、彼の部屋に夜行くことに抵抗がある私だ。
お互い、不機嫌にお茶でも飲んで帰ってくれば仕事は済む。
万が一、彼が“打ち合わせ”をしてくれるとしたら、ありがたく応じよう。


18時、私は指定されたとおり、海東くんのマンションに到着。
チャイムを押してから合鍵でドアを開ける。決まった手順。


「海東くん、入るよ」


伊勢丹カラーのスリッポンを脱ぎ、あがりかまちに足をかけると、海東くんが廊下に顔を出した。
文字通り、上半身だけ覗かせている。


「……いらっしゃい。桜庭さん」


何、その間。

玄関まで香るトマトとニンニクの香りの中、リビングダイニングに入る。

意外や意外。
この匂いはケータリングや宅配ピザじゃなかった。
デザインシャツとジーンズの上にカフェエプロンをつけた海東くんが、キッチンで料理をしていたのだ。
鍋に見えるのはトマトソース的なもの。
あと、流しに動いてるのは活手長エビ?
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