桜並木の下で
それから長い時が過ぎて…


「…こんにちは、ジュリエットさん」

「こんにちは、番人さん」

「ついに、渡られるんですね…」

「うん、私があんまりここに長居するから、上から催促状がきちゃったし…」

少女は大きな観音開きの扉に歩いて行くと、そっと触れてみた。

二人の上には、変わらず桜の花びらが舞っていて、桜並木の桜はいくら散っても満開の状態を保っている…

「それに、元カレから一緒に行かないかって誘われちゃって〜」

「そうですか…」

番人は何も感じる事なく、淡々とそう答えた。

辺りに見送り人の姿はなく、二人だけの静かな時間がしばらくつづいた。

「…今、ちょっと寂しいって思ったでしょ?番人さん」

少女はふり返ると、番人の顔を見た。

「いえ、私にはそのような感情は、ありませんので…」

「そっか〜残念」

少女はちょっと、がっかりすると寂しそうに笑った。

「…お相手のロミオさんは、先に渡られているようですね…」

番人は資料に目を通すと、言った。

「うん、好きな同人作家さんの本を読みまくるんだって〜私はついでなのかもね…」

「そうでしょうか?」

「うふふ、でもいいの…私もパンケーキと、ご当地ゆるキャラを満喫するから〜」

「そうですか…」

「じゃあ、またね番人さん」

「はい、またお会いしましょう…」

少女がゆっくりと両手で扉を押し開くと、扉の向こうは光であふれていた。

光の中に入って行く姿を番人が見送っていると、少女が不意にふり返った。

「そうだ、番人さん」

「何でしょうか?」

「私あっちに行っても、番人さんの事を覚えていたいんだけど、どうすればいいかな?」

「あぁ…それでしたら、出されたスープを全部飲まないで下さい」

「スープ?」

「ええ…ひどく喉が渇いて、皆さん飲み干してしまうそうなのですが、飲まなかった方は、ここでの記憶や前世の記憶を覚えているそうですよ…」

「へ〜そうなんだ…ありがとう番人さん、行って来るね〜」

少女は嬉しそうに手をふると、扉の中へと消えて行った。

「いってらっしゃい、どうぞ良い旅を…」

扉の番人はいつものように、あちらの世界に渡る人間を見送ると、光の庭へと戻って行った。
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