艶楼の籠

「んん…。」


まだ、眠りに落ちてしまいそうなほど、心地よい温もり…。

今日は、このまま眠っていたい。


「雅。」


私の名前を呼ぶ、心地いい声もまた眠りに誘う。


「起きないのか…?んじゃあ………。」


眠くて………。
目をこすり、開けると綺麗な顔立ちの男が1人。


「はっ!椿さんっ!!!」


頬杖をついて、優しく微笑む彼の顔が妙に近い。


「おはよ。雅。起きないなら、口づけてやろうと思ったんだが……。」


そう冗談を言いながらも、雅の頭に手を伸ばしてくる。


「っつ!」


「可愛い顔して寝るんだな。」


こんな…こんな優しい顔と声は、反則ではないかと思う…。


「も、もう、帰らなくちゃっ!」


いたたまれなくなった私は、布団から飛び出した。


「あぁ。着替えはそこにあるからな。」


着替え?
確かに、帯で締め付けられる苦しさもない…。
見たこともないような、寝間着姿になっている。


「わ、私!!着替えてないですよね!?」


「自分では…着替えてなかったぞ?」


不適な笑みを浮かべている椿。
容易に想像が出来たが、確認せざるを得なかった。


「では、どなたが…??」


椿は、ニコニコと微笑むだけで、何も返答してはくれなかった。


「着替えますので、出て行って下さい!」


椿を布団から引っ張り出し、部屋の外へと追い出してしまった。

恥ずかしさで、身体が熱くなる。

初めて…男性に身体を見られてしまった。


「俺が手伝ってやろうか?」


私の恥ずかしさを分かっているであろう人が、襖の向こうから、そんな言葉を掛けてくる。
信じられないっ!最低だ!!そんな言葉を浴びせてやりたかった。
< 14 / 31 >

この作品をシェア

pagetop