艶楼の籠

ピシャリと襖を開けると椿の姿はなかった。

静まり返ったこの場所は、なんとも異様な雰囲気だった。


「おや?1人でどうしたんだい?」


この甘く優しい声は…。


「櫻生さんっ…。これから帰りますので…。」


胸元がはだけ、長い髪の毛が束ねられていない姿は、昨晩何があったのか容易に想像できてしまう。
艶やかで美しい。


「そうかい。椿は…?」


「椿さんは……わかりません。」


櫻生は、雅との距離を徐々に詰めてくる。


「それじゃあ、俺が椿の代わりに下まで送ろうかね。」


壁側に追い詰められ、身動きがとれない。
この距離感に心臓はうるさく鳴り始めた。


「あの…っ。私帰らなければ…!」


はだけた胸元を押し返す。
その胸元の男らしさにドキッとする。


「顔が…赤く染まってきたぞ?」


顎を持たれ、照れているであろう顔をジッと見つめられた。


「昨晩の椿は、どうだった?そして…あんたは、どうやって啼いたんだ?」


色っぽい声で問われたところで、何も話す様なことはしていない。


「やめて下さい…っ!!」


「やめろと言われてやめる男がいるかい?…クスっ。なぁ。俺にも聴かせておくれよ。」


私の耳元で話す声に、身体がゾクリとした。


「おい。やめるんだ。その方は、椿の客人であろう。」


雅と櫻生の横には、身長の高い男がいた。


「ちっ。桔梗か…。なんだい。別にいいだろう。」


櫻生は、あからさまに嫌な顔を桔梗にむける。


「はぁ…。お前もわかっているであろう。人の客人に手を出すことは、御法度であることを。」


そういう世界なのだ。
一夜を共にすることは、契約を交わしたも同然。
男も、女も別の人を選べない様になっているのだ。
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