艶楼の籠
根も葉もない現実離れした噂話が楽しい年頃だ。


今日、私は20歳を迎え冠宴(かんえん)の儀を行う予定である。

冠宴とは、20歳を祝うことであり、全ての事から自由になれる代わりに、全責任を自分で背負う歳になった事を示す。


冠宴を迎えた人は、婚約する者も居れば、海外へ渡る者も居る。
私の様に家を継ぐ者もいる。

私の家は、呉服屋の老舗である。まだ商売の知識も何もない私を立派な商人とするべく、父母と日々忙しく過ごしている。色んな人が行き交うこの店でも、噂話をする人なんぞ居るわけがなく、日々の忙しさに追われ忘れかけていた。


私は、未だ見たことのない世界へ興味と関心を抱いている。

この世の者とは思えない程美しい男達がいる所も…。


「雅っ!ほら、早く支度なさい!」


後ろから、私を急かすように声をかけてきたのは母だった。
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