君のために歌う歌
会場が真っ暗になり、歓声と拍手が観客から湧いた。



「始まるよ!」


郷愛が言った。




パッとステージが照らし出される。


ベースを持ったお兄さんと、キーボードのお姉さんの二人組だった。



(ち、近い……この人達のファンの皆さんごめんなさい……)



宙子はそんなことを思いながら、眼前で演奏して歌うお姉さんにドキドキしていた。




♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪





正直に言うと、歌も演奏もそれほど上手くはなかった。


しかし、楽しそうに、精一杯に歌うその姿は何か心にくるものがあった。


(上手ければいいってものでもないんだな。)


宙子は、これがライブなんだ、としみじみ思った。




「ありがとう!最後まで楽しんでいってください!」



お姉さん達は手を振りながらはけていった。


宙子は精一杯の拍手を送った。



会場は暗転すると、また薄明かりになり、当たり障りないBGMが流れ出した。
< 193 / 303 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop