彼と私の事情
「…ありがとう」

目がぱちくりしてしまった。

黙々と食べていて、どう思っているかもわからないけど、

その言葉で救われた気がした。

誰かと一緒にご飯を食べるということはこんなにも心が暖かくなるのか、と。



結局全部食べてくれて、洗い物までしてくれた。

その間、なにをすれば良いかわからなくて落ち着かなかったけど。


洗い物を終えた彼が私の顔を覗き込んでくる。

「な、なんですか?」

眼鏡の奥は澄んでいて怖いくらい。つい、後退りしたくなる。

「…昨日より顔色も、くまもいい。よかったな。」

頭をぽんぽんして別な部屋に消えていく彼。

リビングに赤い顔をした私だけ取り残された。
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