大人の恋はナチュラルがいい。

***

 5年ぶりだった。まさか突然こうなるとは思ってなかったのであまり準備もしていなかった。けれど、上出来だったと評してもいいのではないかと、私は昨夜の事を思い返しながら朝の光に陰影を作る太一くんの寝顔を眺める。

 愛ってやつはイソフラボンもプラセンタも超越するのかもしれない。機能が低下してるのではないかと疑われた身体は太一くんの手が触れるたびに、まるで封印が解けるように悦びに目覚めていった。

 女を悦ばせる事が男の喜びと言わんばかりに、太一くんは素直に反応を示す私に無邪気で妖艶な笑みさえ浮かべた。初めて知る彼のそんな一面は更に私を悦ばせ、めくるめく愛と官能の時間を送ったのであった。

 昨夜の情熱を思い起こしホウッ、と熱い溜息を吐けばお腹の奥がキュンキュンと疼き出す。横目で壁掛け時計を窺うと時間は5時5分。そろそろ起きて支度をしなくてはモーニングタイムの準備に間に合わない。けれど、素肌で眠る太一くんのぬくもりをまだまだ感じていたいと云うのが本音なのだ。

 ええと、今日のモーニングは生ハムのパニーニを変更してスープセットにしよう。フリージングしてあるストックを使えば時間が短縮できるし。昨夜作れなかったお菓子は午前休憩のときにお店で焼くとして、ええっと後は……


 予定外の彼氏のお泊りは繰り返す日常を狂わせたけれど、でもその穴埋めさえも幸せだと思えるほどに私は心も身体も満たされていた。いっそ、このまま一緒に暮らしてしまえば、この狂ったリズムが日常になってそれはそれで幸せなのに。なんて色ボケた事を考えてはたと気付く。

「……ああ、そっか」

 きっと狂ったリズムが定着した日常には、彼に晩ご飯を作ってあげる毎日も含まれるのだ。昨日は気付かなかった自分の発言の意味深さに、ひとり苦笑いを零してしまった。

 いつかそんな日が来るといいね、なんて声に出さず呟きながら私は穏やかな寝息をたてる彼の体に身を寄せた。触れ合った肌から伝わる熱は、5年ぶりでもしっかり機能した身体に温かく心地好く染み込んでいった。

 
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