小さな恋物語
「ばか。ノックしろって言ってるでしょ。それにリビングから入るのも直らないし…」
「別に今更。昔からそうだし、おばちゃんだってもう慣れてるじゃん?」
そういう問題じゃない。
瑞樹はベッドにドサッと座ると、急に真面目な顔で私を見てくる。
「芽々、顔色悪いなぁ…大丈夫なの?」
「大丈夫だったら今頃映画行ってる」
瑞樹の前ではどうしても可愛くなれない。いつも売り言葉に買い言葉になってしまうし、ノリも男女の甘酸っぱさなんて縁遠い。
「治ったらさ、俺が連れて行ってやるから」
「…どこに?」
「映画。お前、公開前から楽しみにしてたじゃん」
その映画は私が大好きな本の実写化で、何ヶ月も前から楽しみにしていた。
瑞樹、ちゃんと覚えててくれたんだ…。