溺愛オフィス


だ、だめだめ。

こんなことで動揺してるようじゃ、いつまでもちゃんとした恋愛ができないじゃない。

私は桜庭さんに気づかれないように密かに深呼吸し、どうにか平静を装った。

腕時計をチラリとみると、終電までギリギリだ。

これは、ノンストップで走った方がいいかも。

もう少しヒールの低い靴にすれば良かったと、アンクルストラップのクラシカルなパンプスに視線をやる。

と、桜庭さんが蓮井、と私を呼んで。

視線を桜庭に向ければ──


「家はどの辺りだ?」


いきなり、そんな事を問われた。

世間話なのかと思いつつ、最寄りの駅名を告げる。

すると。


「わかった。ついでだし車で送っていく」

「えっ!? だ、大丈夫です。まだ終電ありますし」

「間に合うのか?」


多分、桜庭さんは私の様子で焦っているのがわかったんだろう。

だから、気を利かせて送ってくれると言ってくれたんだ。

でも、迷惑はかけられない。


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