溺愛オフィス


「このままで帰るしかないですね」


自宅までの辛抱ですと話、笑って見せた。

すると、桜庭さんは少し思案するように指を顎に添える。


「送ってやれればいいけどな。さすがに今日は無理だし……」

「だ、大丈夫ですから!」


その気持ちだけで嬉しいです。

そう告げると、桜庭さんは僅かに微笑んで。


「なんなら好きな衣装着て帰れ。深水か日宮には、俺が許可したって言えばいいから」

「わ、わかりました」


コーヒーで服がダメになったのは痛いけど、発売前の服を着て帰れるなんてちょっとラッキーかも。

なんて、ポジティブすぎかな?

桜庭さんにお礼を言うと、彼は車に乗り込んでエンジンをかける。

そして、駐車場を出る際、私に向かって軽く手を上げてから、街中へと消えていった。


遠くに見える空気の揺らぎに、夏の気配を感じながら


私は息を吐き出して、まだ明るい空を見上げた。















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