溺愛オフィス


控えめな音をたてて扉が開いて、ナース服を纏った一人の落ち着いた雰囲気の看護師さんが入ってきた。

彼女は私に気付くと軽く会釈をし、父が寝ているのに気付くと声を潜めて「娘さん?」と尋ねてくる。

「はい」と首を縦に振ると、今度は私の手元に気付いて笑みを深めた。


「あ、もしかしてまた見てたのかしら?」

「え?」

「それ、あなたでしょ?」

「はい……」

「前回の入院中もね、毎日見てたみたいよ」

「毎日……ですか?」


信じられなくて、目を丸くして聞いてしまった。

看護師さんは頷くと更に教えてくれる。


「誰かが来ると隠すんだけど、こうやって見ながら寝てることもあってね」


私たち看護師の間では、不器用パパさんって呼ばれてるのよ。


そう言って、看護師さんはクスクスと笑った。

そして「これ、起きたらお願いします」と体温計をテーブルに置くと、看護師さんは病室を出て行った。


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