溺愛オフィス
【惹かれているのです】
「また来るね」
帰り際の私の言葉に、父は来なくていいとぶっきらぼうな口調で返した。
きっと、以前なら傷ついていたその台詞。
でも今はもう、あまり痛みを感じない。
父が毎日眺めているという数枚の写真が、私の心を前向きにしてくれたから。
あえてこちらを見ないようにしている父に苦笑いを残し、私は病院を後にした。
外に出ると、空はすでに暮れていて。
頭上に広がる藍色に、うっすらと光る星明かりを見上げてから、ヒールの音を響かせつつ駅へと向かう。
その道中、私は悩んでいた。
背中を押してくれた桜庭さんに、どう報告するべきかを。
本当なら、顔を見てがいいだろう。
でも、会社では桜庭さんとプライベートな話しをする機会は少ない。
わざわざ時間をとってもらうのも悪いし……
かといって、お昼に誘うのも会社の人たちに何か思われるかもしれない。
だとすれば、電話?
……それも、仕事中だったら迷惑かも。
じゃあ、休日まで待って……と考えるも、せっかくの休日に、とか、桜庭さんの都合をあれこれ気にしてしまうと、いつがベストかわからなくなってしまった。