溺愛オフィス
エレベーターを降りると、硬めの絨毯が敷き詰められた廊下に出る。
直後、給湯室横の自販機でホットコーヒーを買っている人物が視界に入った。
美咲がニコニコしながら声をかける。
「新人くーん、あたしにも一杯ご馳走してくれなーい?」
「岡沢さん、いー加減その呼び方やめてくれません?」
俺にはちゃんと名前があるんですよと、不機嫌そうに話す彼の名は、日宮 壮介(ひのみや そうすけ)。
さっき、昼食を食べていた時にチラリと話しに出ていた人物だ。
少し童顔気味な、どこぞのアイドルにも引けを取らない顔立ち。
束感のある無造作に整えられたショートヘアは、明るめのアッシュカラーで華やかなイメージがある。
ふと、彼の薄茶色した大きめな瞳が、私の姿を捉えた。
「柊奈さん、岡沢さんに奢ってあげてよ」
「な、なんで私?」
「だって俺の財布、鞄の中入れっぱ」
どうやら、自分が使う小銭だけ持ってきたらしい。