ハートブレイカー
奇跡的に見つけた引越し業者に頼んで、日曜日にアタフタと引越しを済ませた。
持って行かない家具や物については、業者が引き取ってくれた。

おんぼろ新居に入る前に、私は近くにあったポストに辞表を投函した。

それからは機械的に荷解きをした。
ひたすら手足を動かした。

そして私は、いつの間にか泣いていた。

幸い私はつわりで吐いたり倒れそうになったことはまだ一度もないけど、妊娠してからどうやら涙もろくなったらしい。
いや、もしかしたら、これは赤ちゃんが流している涙かもしれない。
今は私の中で育っている最中だから、私の体を借りて泣いているのかもしれない。

「・・・がんばろ、ね」

まだ聞こえてないかもしれないけど、今私の話し相手になってくれるのは、胎内にいる赤ちゃんしかいなかった。
これからはこれが私たちの合言葉になるかもしれない。
そんな予感に、私はどうにか笑顔を取り戻した。


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