ハートブレイカー
そうと決まれば善は急げ、ではないけど、私がそんなに休みを取れる立場じゃない(クビ切られるにも関わらず、だ)事情を派遣のお兄さんは分かっているため、その日の午後に顔合わせの予約を取りつけてくれた。

私が海堂商事にめでたく入社できれば、お兄さんの会社はマージン がもらえる。
私は職を得る、海堂サイドも有能な(とあえて言う)人材を得る。
みんな損はない、ウィン・ウィン・ウィンの関係だ。

こうなることを想定していた私は、ちゃんと濃紺のスーツに白いブラウス、黒のパンプスという、リクルートスタイルで来ていた。

「エントリーシート用意できました。では行きましょう」
「はいっ」

私は受かる、採用されると念じて、根拠のない自信を心の中で育てる。
ノミの心臓の持ち主である私は、こうでもしないとその場の雰囲気に呑まれてしまうのだ。

『自分に暗示をかけろ。私はできると。実際おまえはできるんだ。 これくらいのことでビビるな』

・・・教えてくれたのは、氷室さん、だったりする・・・。

私は余計な考えをふり払うように、目をつぶって自己暗示をかけ続けた。


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