ハートブレイカー
突然聞こえた車のクラクションに、私はビクッとした。

あ・・・わ、たし?
数メートル先には、赤く灯った信号機が見えた。
そして私は、横断歩道の途中で、ひとり止まっていた。

またブーッとクラクションを鳴らされた私は、その車を見た。
たぶん私の顔は、間抜けなくらい呆けていると思う。

でも、いくら現実逃避中の私でも、自殺志願者じゃありません。
それに、全然関係ない人を巻き込んで、保険金せしめようとか、そういう手の込んだ真似するつもりもありません。
第一、そんな保険なんて加入してないし。
あ・・・保険。 それも考えなくちゃ。

「・・すみません」

聞こえなかったと思うけど、車の運転手さんに向かって謝ると、回れ右をして元の歩道へ歩き始めた。
そっちのほうが近いから。


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