ハートブレイカー
切れ長の黒い瞳がキラキラと光って見えたのは、私がほしいという欲望からだと思っていた。
確かに彼は、私を抱きたかった。
あのときは。

でも・・・あのとき、あの場にいた女が私じゃなくても・・・彼にとってはよかった。

「朔哉さん」「愛美」と呼び合った甘く濃い関係は、あの一晩で消 えうせ、また「氷室課長」「浪川」の上司と部下の関係に戻った。
週明け会社で再会した彼は、また普段どおりのポーカーフェイスしか私に見せなかった。
いや、私だけじゃなく、他の人たちにも、普段どおり飄々とした表情で接した。

昨日まで、ずっと。

だからあれは、彼にとっては一夜の過ち。
むしろ、なかったことにしたいのかもしれない。
だから私は、彼に妊娠したことを言うつもりはない。
彼に頼るつもりもないし、厄介ごとの人生に巻き込むつもりもない。

これは、彼にとっては望まない妊娠だろうから。

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