金魚の恋
桜の季節を迎えたんだけどさ、俺、なにやってんだろうなあ。
結局どこにも就職できずにいる。車の購入資金稼ぐのにやった、ガソリンスタンドのバイトをまた始めたよ。
とりあえず半年間の契約なんだけど、一年に伸びちゃうかも。店長は、それでもいいゾ、って言ってくれてるから。

親はキチンと就職しろってうるさいけど、学校の紹介してくれた車の部品工場じゃ、なあ。
寮に入ることになるしなあ。
就職体験させてもらったけど、キツイよ。ベルトコンベアで流れてくる部品に、ネジやらボルトやらを時間内にはめ込んでいくんだぜ。
自信ねえよ、俺。それに、立ちっぱなしだしな。

kazukoのこと?
kazukoはさ、大学に行ってるよ。nagoyaのね。
俺なんかとは、住む世界が違うんだな。ちょっと考えりゃ分かる、ことなのにさ。
俺みたいな頭の悪い奴では、kazukoには相応しくないよ。それ位、俺だって分かるさ。

kazukoとはさ、結局、キスだけで終わっちゃった。
いやあの後もさ、何度かチャンスらしきことはあったんだけど、なんでか知らないけど、しぼむんだよ。

この話をさ、車を売ってくれたおじさんにしたんだけどさ、笑われた。
「いいんだよ、それで。そういうことも、ままあるってことさ」
って。
それから、意外なことを教えてもらった。俺の親父に、女のことで相談し
たことがあるんだって。やっぱ、父親には話しにくいよな。

で、親父に同じことを言われたって。
「迷える仔羊、stray sheep。悩める青年、rolling age、だよ」
分かったような、分かんねぇような。いろんな経験をして、それからゆっくり大人になれ、ってさ。    
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