卯月の恋
チャイムを30回くらい鳴らしただろうか。
ドアに打ちつける左手がじんじんとしびれてきた頃、バタンと乱暴にドアが開いた。


「…なに、アンタ。うるさい。めーわく」

少し開いたドアの隙間から見えたのは、思いっきり、しかめ面でだるそうな若い男の人だった。
長袖Tシャツにスウェット生地のズボン姿でいかにも寝起きみたいだった。

男の人はそれだけ言うと、またドアをしめようとする。

「ちょっと、待って!待ってください!」

慌てて、しまりかけたドアに手をかける。


「助けてください!キリコが…ぐったりしてて。この時間でも空いてる病院、知りませんか?」


一気に話して、男の人の顔を見つめた。

男の人が眠たそうな目を少し見開いた。

「キリコ…?具合悪いんなら、救急車よべば?」

「キリコは…うさぎなんですっ!」

「…うさぎ?」


私は何回もこくこくと頷く。

「うさぎは…救急車に乗せてくれませんよね?」

男の人ははぁ、とため息をついた。

「どこか、この時間でも空いてる動物病院、ご存知ないですか?」

「知らねー」

いかにも腹立たしい、といった感じで男の人は私をにらみつけた。

「生き物飼ってるなら、それくらい調べとけよ。アンタ、飼い主なんだろ。無責任だな」

「……」

思わずうつむいた。

全くその通り、図星だと思う。
自分が情けなくて、じわっと涙が込み上げてきた。

泣いてる場合じゃないのに、頭では分かっているのに、一度溢れた涙は止められなかった。

キリコ。
私の大事なキリコ。

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