卯月の恋
ポタポタと廊下に涙を落とす私の前で、ドアはバタンと閉められた。


泣いてる場合じゃない。
泣いてる場合じゃない。

自分に言い聞かす。

ごしごしと手のひらで涙を拭いて、顔を上げた。

この階には他にもう1つ部屋があるけど、そこは空き家だと大家さんが言ってた。

下の階か、上の階の人をあたってみなくちゃ。


階段に向かおうと駆け出した時、後ろからガチャと音がした。

振り向くと、隣の部屋からさっきの男の人が出てきた。

下はスウェットズボンのままで、上にフードパーカーを羽織っている。

「ケータイで検索したら出てきた。救急動物病院。今タク呼んだから、うさぎ連れてこいよ」

男の人は表情を変えず、淡々とそう言うと、だるそうに私の横を通りすぎて階段に向かう。


はい、と返事した私の声は震えていた。



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