卯月の恋
パソコンで事務処理をしていると、肩をぽんと叩かれた。

振り返ると、川崎さんがにこにこしながら立っている。


「すみれちゃん、明日空いてる?飲みに行かない?」


なんて単刀直入な…。

愛想笑いを浮かべながら、素早く周りを見渡した。

秦野さんは営業部に用事があって、まだ戻ってきていない。


「あ、あの…私、お酒は飲めなくって…それでですね…」


もごもごと言いながら、はっと気づく。

「あ、明日って木曜日ですよね。木曜日は私、ちょっと無理なんです」

はっきりとした断る理由があって、ほっとする。

そうだそうだ、明日は玲音が来るから無理なんです。


「木曜日は毎週、無理なの?習い事?ヨガとか?」


何故ヨガ…。

すぐに諦めるかと思ってたのに、川崎さんは隣の空いてる秦野さんの席に座ってさらに聞いてくる。
他の社員は私たちが仕事の話をしていると思っているようで、誰も気にとめない。

「いえ、ちょっと約束がありまして」


「えぇ、もしかして彼氏?」


「彼氏じゃありません…」


「じゃあ誰ー?」


川崎さんはにこにこ笑いながらも、追求をやめない。


「お隣の人です」


「お隣?なにそれ」


川崎さんがおかしそうに笑う。

「ちょっと!!」


その時、ようやく秦野さんが戻ってきた。
ものすごく怖い顔で近づいてくる。


「川崎くんさぁ、こんなとこでナンパとか、ほんとやめてくれない?」


川崎さんは、見つかった、と呟くと、

「すみれちゃん、じゃあ木曜日以外にまたね」

と部署を出ていった。
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