卯月の恋
「…だめだ」

ため息をついて、電話を切った。
何度かけても、大家さんは出ない。


携帯を見ると、もうすぐ八時になろうとしていた。


キリコ、さみしがってないかな。

ラビットフードはいつも多目に置いてるから大丈夫だろうけど、今ごろ寂しくて足をだんだんしまくってるに違いない。

玲音の部屋にはテレビがなかった。
雨はまだ降り続いているらしい。
静かな部屋の中は雨音だけが聞こえた。
私の隣には、すぐ手を伸ばせばふれる距離に玲音がいて、心臓がバクバクする。
静かすぎて玲音に聞こえるんじゃないかと心配になった。

だけど。



「ん?」

玲音が私を不思議そうに見る。


「…もしかして、腹へってる?」


聞こえたのは、私のお腹の音のようだった…。


玲音は笑いをかみ殺しながら、そっか、アンタご飯まだだよな、と言って立ち上がる。


うう…恥ずかしい。


「でも、うちなんもないから、どっか食いに行く?あ、でもアンタ靴もびしょぬれだよな」


玲音は少し考えたあと、なんか買ってくる、と言い残し部屋を出ていこうとする。
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