卯月の恋
「玲音?あー、あいつ、急にやめちゃったんだよね」

いかにもホスト、っていう感じの髪型をした、若い男の人がそう言って鼻にしわを寄せる。


「…やめた?」


「そう。玲音に会いに来たの?」


「…はい」


「けど、キミうちのお客さんじゃないよね?」

もう一人の同じような感じの人が、私の顔をのぞきこむ。


「…ちょっとした知り合いで。…あのっ、玲音どこに行ったんですか?」


「あー、ちょっとわかんないや。ごめんね?」

ホストの一人がにっこりと笑う。


「俺たちも詳しくは知らなくてさ。てか、暇?遊んでいかない?」

ね?と笑顔を見せるホストたちを見ながら、やっぱり玲音はホストらしくないな、と思った。
玲音はこんなににこにこ笑わないし、こんなにしゃべらないもの。
それとも、玲音も仕事の時はこんな風に笑ったり、しゃべったりしてたのかな。


「玲音はいないけど、楽しいよー。初回は飲み放題2000円、しかも指名料もサービス!」


へらへら笑いながら話し続けるホストたちを振り切って、逃げるように走って帰った。


玲音があんなところでどんな風に働いていたのか、全く想像ができない。
あらためて、自分が玲音のことをなんにも知らなかったのだと気付いた。

それでも。
それでも会いたい気持ちはなくならない。
玲音が好きだという気持ちは、決して消えたり揺らいだりしなかった。


玲音が消えて、もうすぐ一ヶ月が経つというのに。
玲音はずっとここにいる。
私の心の一番真ん中で、えらそうにして、出ていく気配すらない。
そして、私はそのことに安堵する。


もういなくならないよね、と。

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