卯月の恋
「私の好きな人です」


海からの風に負けないように、私ははっきりそう言った。


川崎さんが、は?と間抜けな声を出して、私はこんな時なのに少しだけ笑ってしまった。



「…くくっ」


玲音も笑った。



それから、私の腕をぐいっと引っ張って、

「うちのすみれがいつもお世話になってます」

と川崎さんに向かってお辞儀をした。


いつかみたいに。


「え…あ、はい。どうも」


きょとんとしたままの川崎さんに、私は深々とお辞儀をした。

「すみません。私、ビアガーデン行けません」


それから、玲音の手をぎゅっと握って歩き出す。
もうどこにも行かないように。


あ、そうだ。


「川崎さんっ!ティラミスとりんごのシブースト!秦野さんに取っといてあげてくださいっ」


振り返って私が叫ぶと、川崎さんはあきれたように少し笑って、わかったー、と叫び返してくれた。


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