金魚
金魚すくい
『金魚すくい』
千夏が目を覚ますと、大切に育てていた二匹の金魚は、一匹になっていた。
「お母さん、私の金魚は。」
ソレを見た千夏は慌てて母に尋ねると、予想どおりの返事が反ってきた。
「朝、起きたら、死んでたから、だから庭に埋めといたよ。」
「そうかぁ、そうだよね、もう、一年経つんだよね、もう。」
千夏は、そう言うしか無かった、自分の部屋に入っていくと、黙って金魚鉢を見つめた。
あの金魚は、千夏にとって特別の金魚だった。
丁度、一年前の事、千夏の彼氏である優希と一緒に夏祭りに行った時のこと、優希が千夏のために、金魚すくいで採ってくれた、二匹の大切な金魚だった。
千夏は、一匹になってしまった金魚を見つめ、罪悪感を無理矢理、隠そうとした。
でも、無理だった。
彼、優希は、そのお祭りの帰りに、千夏を送っていった後に、そのまま事故に遭い、帰らぬ人となった。
だから、この金魚を大切にしてきたのに、この金魚だけは一匹にしたくなかった。
自分の様に。
「お前も、淋しい?」
思わず、千夏は金魚に話しかけた。
もちろん、金魚が返事をするはずが無い、でも、千夏は不思議なことに気が付いた。
金魚は私と違い、生き生きといつもと変わらず、明るく泳いでいる、そして、紅い尾鰭を振って自分の事を励ましてくれている様に見えた。
「そうだよね、もう一年経つんだよ。」
意味は無いけど、そう金魚に言ってみせた。
そう、言ってみたが、金魚鉢に涙で濡れた、自分の顔を見つけた。
金魚には、言ってみせたが、自分にはまだ言い聞かせる事ができない事に気付き、また、涙があふれ出てきた。
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