雨上がりの虹のむこうに


 そうは言っても、彼は私の会社のオーナーなんだから、失礼があったらいけない。

 生まれも良くて、幼稚舎からある私立に通うような生粋のエリートなので、幼なじみというふうに言ってもらっても、公立の学校に通った私からしたら、何もかもが違いすぎる。

 私からしたら、知り合いの可愛いい弟で、月に一、二度食事を一緒にする相手だ。


「優ちゃん、僕は約束を守っているんだから、優ちゃんもきちんと守ってね。予定がなかなか空かなくて、急な誘いになったけど、その服かわいいね」


「今日は買い物しようとしてたから」

「そう。かわいい優ちゃんを見れるなら、買い物に付き合うのもいいね。似合いそうな服や靴を見立ててあげるよ」

 
 見立ててもらうと言っても、簡単に買えるような金額の物じゃないはずだ。私の1カ月分の給料なんてコート一枚買えやしない。

「忙しいのに付き合わせたら悪いわ。それよりゆっくり食事でもしましょう」

 そのほうがまだ安上がりのはず。

 自然なエスコートで車に乗り込むと、運転手さんにも挨拶をされる。


「お久しぶりです。優子さま」

「今日はお世話になります。高木さん、様はいりませんから」

「いいえ。優子さまは大事なお嬢様です。そう呼ばせてください。私共従業員にまでお優しいのが嬉しいのです」


 困った。高木さんはいい人だけど、頑固でもある。


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