雨上がりの虹のむこうに
 さらりと乾いたその手には、男らしい血管が浮き出ていて、小さかったあの男の子ではないのだと言っていた。

 私の手を包むようにしながらも、指の一本一本をなぞるように触ってくる。


「大きくなったよね」

「もう十分に成長したかな。少しは気にしてくれてる? 」

「ええ。気にしますとも。ここは会社ですから」

 そう言いながら、ぺりぺりと指をはがしていく。

「オーナー、誤解されますから止めて下さい」

「誤解じゃない。事実だよ」

 誰にとってのものかは聞かないことにする。事実だとしたら、付き合っていることになるのかしら。

 つい回りを見回して、人がいなかったことにほっとする。月に一度だった訪問が、このところ増えているのは、どういった理由からだろう。

「こんなことをするために、ここに来るよりも、キチンとお食事を取って下さい」

 分刻みのスケジュールの空きを探すのだとしたら、休憩を削っているのだとしか思えない。たとえ車で数分だとしても、急に暇になるほど勇人さんの仕事が減る訳がなかった。

 
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