雨上がりの虹のむこうに
「無事に帰ってきてくださいね」
「またここに帰ってきます」
そう言った山並さんはとても穏やかで、胸が痛くなった。
この痛みは、なくすことを恐れる痛みだ。
お父さんやお母さんをなくした時の痛みと同じだから。山並さんが、どこか知らない所に行ってしまう、そのために感じる痛み。
山並さんを、自分の一部のようにずっとここにあるものだと認めてしまったから、失うかもしれないという可能性を考えたことはなかった。
怖かった。
ずっと、ずっと。
誰かを好きになって、その人を失ってしまうことが。誰も好きにならずに、父や母の思い出と一緒にずっと大使館にいたかった。
大使館を買い取るために、仕事づけになっていても、これ以上に大切なものなんてなかったから頑張れた。
きっと一生かかってやっと買い取れるくらいだから。