雨上がりの虹のむこうに

 この鮮やかな季節を後にして、山並さんは雪と氷の世界に行ってしまう。北緯63度のマッキンリーは、高緯度のため真夏でもマイナス30度になる。寒さが痛みのように感じられる世界で、何を見て、何を思うのだろう。

 どの山でも言えることだけれど、マッキンリーは遭難者が多いと言われている。登山家の植村直巳さんが厳冬期の単独登山で遭難したことは有名だ。

 それから捜索隊が二回出ているものの、遺体が発見されることはなかった。微生物すら存在出来ない寒さのなか、雪と氷に閉ざされた世界にまだ植村直巳さんはいるのだ。

 もっとも遺体を回収しようとする国は日本くらいで、山頂に近づくにつれ雪のなかに取り残された遺体を見ながら、さらに登っていくのだという。

 


 少し調べただけで、怖くなってしまった。




 私は、臆病だ。これから出掛ける山並さんに怖くないのか聞くことはできなかった。

 出掛ける山並さんよりも、残る私のほうがずっと怖がっている。
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