もしも緑間くんと恋をしたら
少し歩いて、また家のそばまで帰ってきた。
時間も時間だ。空腹にもなる。

「緑間くん、ありがとう」

「少し会っただけじゃないか」

「それでも、私のワガママ聞いてくれて嬉しかった。ありがとう」

そういうと、緑間くんの頬に軽くキスをした。背伸びしてやっと届くとはいえ、ほとんど顎に近い。

「……っ?!」

頬を押さえて、緑間くんは唖然としていた。

「大好き」

恥ずかしいけど、それ以上に好きという感情が溢れてきて、言葉にしたくて仕方ない。
気持ちが喉から溢れ、声に出てしまう。
抑えようがない……。

そんな私の気持ちを察してか、彼はグイッと私の腕を引っ張り、自分の胸に抱き寄せた。
汗の匂いが少しする。でも、それは臭いってわけじゃなくて、ホッとする匂い。

「こんな気持ちになったのは……初めてなのだよ。言っておくが、俺も男だぞ」

心臓の部分に耳が触れ、その凄まじい鼓動を聞いた。彼も緊張してる……?

「……うん」

「お前は全然分かっていないのだよ、まったく」

そして、彼は抱き締めるのをやめて、体を離してしまった。

「分かってるよ」

「いーや、分かっていないのだよ。俺がどれだけ我慢しているのか、全然分かっていないのだよ」

「……我慢?」

「もう少し男心を勉強しろ」

緑間くんがそう言った。
彼なりに色々思うことがあるのかもしれない……。
私も、彼の気持ちをもっと理解しなくちゃ。

「じゃあ、またな」

緑間くんは私の頭を撫でると、そう言って帰って行った。

あの声も、背中も、手のひらも指先も、香りも瞳も何もかもが好き過ぎる。

急速に走り出した恋は、止まることを知らないのか。
初めて知った気がした。
< 55 / 56 >

この作品をシェア

pagetop