2番目の唇

「緊急メンテナンスの連絡メール、送信完了しました」
「CC入れた?」
「はい。葛西さんと係長に。指示のあったデータはまとめて共有フォルダに入れておきましたので、後で確認しておいて下さい。解除パスはいつもの、で」
「遅くまで悪かったな」

労わってくれる上司の優しさに少し照れくさくなって、口元がゆるむ。

「課長こそ」
「“課長”ヤメレ」

笑い混じりに返すと、間髪入れずに訂正が入った。

上司の葛西は役職をつけて呼ばれるのが嫌い。

わかっているからこその返しに電話の向こうで小さく笑ったのは、ほとんど同時だった。

「突然のトラブルでしたから仕方ないです。状況は・・・どうですか?」

突如、機嫌をそこねたように一切アクセスできなくなった社内サーバに青ざめたのは、夕方のこと。

そろそろ就業時間が終了するかという時間帯だったおかげで業務に大きな支障はなかったようだけれど、明日の朝の業務開始時間までに復旧させなければ、間違いなくウチの責任問題になるだろう。

声をひそめた私の心配が電話ごしに伝らなかったのか、葛西さんはふわぁ、と大きなあくびをする。



< 5 / 14 >

この作品をシェア

pagetop