会社で恋しちゃダメですか?
園子は胸をぎゅっと掴まれる。それでも彼女に笑顔を向けた。
「こんにちわ」
あおいは入館証を胸からさげて、園子のほうへとやってきた。
「ご無沙汰しています」
園子は立ち上がって、頭を下げる。
「達也、いるかしら」
あおいは訊ねた。
「はい。お待ちください」
園子は山科の部屋へと出向き、扉をノックし、部屋にはいる。
「部長、お客様です」
「ん? だれ?」
デスクに座っていた山科が、覚えがないとうように首を傾げた。
「あおいさんですよ」
園子が言うと、山科の顔色が変わった。ジャケットを掴み、腕を通す。前襟を両手できゅっと引っ張ると、厳しい顔で部屋を出た。
「達也」
あおいがうれしそうに駆け寄ってくる。
「あおい、ここには来るな」
山科は静かにそう言った。
紀子はびっくりした顔をして、園子の顔を見る。園子もその言い方に驚いて、紀子と顔を見あわせた。
「仕事の話だもの。いいじゃない」
「仕事?」
「そう。聞いていない?」
あおいはさりげなく山科の腕に手をかける。山科はちらりとその腕を見ると、そっと腕から手を外した。
「冷たいな」
あおいが笑顔のまま、口を尖らす。
「ちょっと出てくるから」
山科は園子にそう言うと、あおいを促して外に出ようとする。
「そこの会議室でいいわ。本当に仕事の話だから。池山さん、申し訳ないけど、コーヒーを二つお願いできる?」
あおいはそう言うと、さっさと会議室へと入って行く。
園子と紀子は唖然として、その姿を目で追った。