会社で恋しちゃダメですか?


銀座は久しぶりだ。日本橋と銀座、近いようでいて、なかなかに遠い。春の日差しに心までぽかぽかと暖かくなる。園子は自然と笑みを浮かべた。


おつかい自体は、本当に早く終わった。ただ園子はTSUBAKI化粧品の本社ビルの新しさと大きさに、必要以上に萎縮してしまった。自分があまりにも場違いな気がして、終始うつむいて、自分の黒いパンプスを見つめるしかない。


あんな大きな会社、どうやったら入社できるんだろう。
受付嬢もすっごくきれいだったし。
同じ化粧品会社なのに、格段の差。


銀座通りを歩いていると、ショーウィンドウに色とりどりの服がディスプレイされているのが、目に入った。思わず立ち止まる。園子のお給料では、とても手が出ない価格。加えて、こんなにスタイルも良くないから、着こなせない。楽しかった気持ちが、どんどんと下降しているのが分かった。


劣等感で落ち込むなんて、よくないのになあ。


園子が一つ溜息をついた瞬間、ショーウィンドウに映る姿が目に入った。


「山科部長だ」
園子は思わず振り返った。


黒塗りの車からから、山科が降りてくるところだった。六十代後半とおぼしき男性と一緒だ。
二人は、すぐ側のコーヒーショップへと入っていく。


あのおじさん、どっかで見たことある気がする。


園子は漠然とそう感じた。
最近、どこかで見た。
でもどこだっけ?


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