会社で恋しちゃダメですか?
「彼女の支えなくしては、僕はここまで粘ることができませんでした。ヘアメイクへの連絡がとれなくなった時……」
社長が鼻で笑う。「ああ、あんな素人くさい手を使おうなんて、腹が立ったからな」
山科もつられて自嘲の笑みが出る。
「TSUBAKIに知られたことで、僕はもう終わりだと言ったんです。でも彼女はあきらめなかった」
横に立つ園子を見る。山科が優しく微笑んだ。
「見合いはもうしません。彼女以外の女性と結婚する気もありません。彼女と交際することを、許してください」
社長が園子に目を移す。「お嬢さんは怖くはないか? この男と一緒にこの会社を背負うんだ」
園子は、喉が絡まって、うまく声がでない。
でも必死に「怖いです」と答えた。
山科が園子を見る。
「怖いです。すごく。今ここにいても、震えてきそうです。頭も真っ白だし、なんというか……」
園子は一生懸命続ける。
「でも、山科部長の側にいたいです。側にいてほしいといわれるなら、いたいと思います。わたしは特別いい家柄の出身でもなく、特別に学歴がある訳じゃありません。華やかじゃないし、ごく普通です。いっぱい考えたんですけど、社長に差し出せるものは何もなくて……本当にどうしたらいいのか分からないんですけど、でも、彼の側にいたいです」
園子は言いきった。
社長が笑う。その表情が信じられないほどに優しい。
「お嬢さん、君とのビジネスは成立だよ」
そう言った。