会社で恋しちゃダメですか?
山科が冷蔵庫を開けてビールを取り出す。園子はジャケットをハンガーにかけた。
プシュっと缶を開ける音。半分ぐらい一気に飲んで「はあ」と息を吐いた。
「池山さんものむ?」
「またいじわる言ってますね」
園子はあの失態以来アルコールを飲むのをやめてしまった。もともと好きな方ではなかったし、それほど苦ではない。
山科がソファに座ると、隣の席をポンポンと叩く。園子がちょこんと隣に座ると、早速山科が抱きしめる。
「癒される」
園子の髪に顔をうずめて、山科がつぶやく。
「うれしいです」
園子も自然と山科の背中に手を回す。だんだんとこういう触れ合いに慣れて来た。もちろん心拍はあがるけれど、緊張して固まるということはなくなった。
でも山科はこれ以上触れてはこない。園子が「怖い」と言ったことを覚えていて、気を使ってくれているのだろう。
「ああ、これ。雑誌の特集だな」
山科がファッション誌を見つけて手を伸ばす。園子は解放されるが、なんだか寂しい気持ちになった。もっと触れ合っていたい。一瞬そんなことを思って、園子は顔をあからめた。
「二つの工場がフル稼働でも、足りないほどです」
「そうだろうな。どうしようか」
「ですね……」
園子が話しかけると、山科がぱっと口を押さえた。
「仕事の話、だめ」
「だって、部長が言いだしたんですよ」
手のひらの下で、もごもご抗議する。
「ごめんごめん」
山科は笑うと、手のひらをとって、かわりに唇を寄せる。
キスも気持ちいい。
息継ぎの仕方を覚えた。
そこにドアのチャイムがなる音がした。