会社で恋しちゃダメですか?


山科が冷蔵庫を開けてビールを取り出す。園子はジャケットをハンガーにかけた。


プシュっと缶を開ける音。半分ぐらい一気に飲んで「はあ」と息を吐いた。


「池山さんものむ?」
「またいじわる言ってますね」


園子はあの失態以来アルコールを飲むのをやめてしまった。もともと好きな方ではなかったし、それほど苦ではない。


山科がソファに座ると、隣の席をポンポンと叩く。園子がちょこんと隣に座ると、早速山科が抱きしめる。


「癒される」
園子の髪に顔をうずめて、山科がつぶやく。


「うれしいです」
園子も自然と山科の背中に手を回す。だんだんとこういう触れ合いに慣れて来た。もちろん心拍はあがるけれど、緊張して固まるということはなくなった。


でも山科はこれ以上触れてはこない。園子が「怖い」と言ったことを覚えていて、気を使ってくれているのだろう。


「ああ、これ。雑誌の特集だな」
山科がファッション誌を見つけて手を伸ばす。園子は解放されるが、なんだか寂しい気持ちになった。もっと触れ合っていたい。一瞬そんなことを思って、園子は顔をあからめた。


「二つの工場がフル稼働でも、足りないほどです」
「そうだろうな。どうしようか」
「ですね……」


園子が話しかけると、山科がぱっと口を押さえた。


「仕事の話、だめ」
「だって、部長が言いだしたんですよ」
手のひらの下で、もごもご抗議する。


「ごめんごめん」
山科は笑うと、手のひらをとって、かわりに唇を寄せる。


キスも気持ちいい。
息継ぎの仕方を覚えた。


そこにドアのチャイムがなる音がした。

< 172 / 178 >

この作品をシェア

pagetop