会社で恋しちゃダメですか?


「じゃあ、何か食べる?」
山科が豪華な食事な並べられている一角を指差した。


園子はまたもや首を振る。とてもじゃないけど食べられない。緊張して涙が出てきそうだ。


山科は困ったような溜息をつくと「じゃあ、ドレスを脱いだら、ごはん食べに行こう」と言った。


「おい、達也」
後ろから声がかかった。


ふりむくと、TSUBAKI化粧品の社長が立っている。隣には同年代の女性。


山科は軽く頭を下げた。
先日は気づかなかったが、社長の背は割と低い。山科よりも拳二つ分ぐらい小さい。隣の女性、おそらく社長の妻で山科の母親、と比べても小さかった。けれど、社長の眼光と雰囲気は、充分に園子を萎縮させる。園子は息をのんだ。


「その女性は?」
社長が園子をちらっと見ると、山科に訊ねる。


「友人です」
「そうか……先日見合いした、豊田物産のお嬢さんはどうしたんだ」
「まだご連絡してません」


山科がそう言うと、社長は眉をしかめる。


「気に入らんのか。結構な器量よしだったじゃないか」
「そうですが……今はまだ結婚は考えていないので」


山科が言うと、社長は「馬鹿を言うんじゃない」と語気を強めた。


「これからを考えると、身を固めた方がいいと言っただろう」
山科は黙り込む。


社長は眉間に皺をよせたまま「まだ、一緒にくらしてたあの女のこと、忘れられんのか」と言い放った。

< 57 / 178 >

この作品をシェア

pagetop