会社で恋しちゃダメですか?


「そろそろ身をわきまえて、前を向け。豊田物産を断るなら他を当たるぞ」
社長はそう高圧的にいい放つと、山科にくるりと背を向けた。母親らしき女性が軽く会釈をして、社長の後に続く。


園子はあわてて頭をさげたが、すでに二人は別の客と話をしていた。園子の存在は無視されたような形だった。


「悪かったね」
山科が窓の方に身体を向けて、園子に謝った。


「いえ、大丈夫です」
園子はそう答えながらも、胸の奥がずっしりとしているのを感じている。見上げると、山科は無言で窓の外を見ていた。


ふっと照明が消える。
音楽が鳴り止んだ。


「はじまる」
山科が言った。


しばらく二人で窓の外を見ていると、キラキラと電飾のついたパレードカーがゆっくりとやってきた。TSUBAKI化粧品のシンボルマークのついた車もやってくる。


山科の腕にかけている手を、園子はそっと外した。山科はちらっとこちらを見たが、そのまま何も言わなかった。


「まだ、一緒にくらしてたあの女のこと、忘れられんのか」


園子の頭の中で、ぐるぐると言葉が回る。
消そうと思っても消えない。


胸が痛むのは、TSUBAKI化粧品の社長のせいじゃなかった。


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